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於來見沙都(おきみさと)の無謀なる挑戦! ――翻訳サイトで自分の小説を訳してみよう

● 会話に泣こう ●

 会話にはいると、翻訳プログラムはとたんにダメになります。でもこんなのは序の口です。二人は初対面の大人なので、形式ばったしゃべり方をしています。子供やコギャルなんかが登場した日にゃ、すでに言語とは思えないような訳がバンバン出てくるでしょう。

はじけたような熱が失せると、辺りのかすかな音が迫ってくる。
If heat which burst fades away, a neighboring faint sound will be imminent.
バッタの跳ねるのが分かった。
It turns out that a batter jumps.
やがて男は口を切った。
The man cut the mouth soon.
「どうしてそうまでして月の虹を見たいんですか」
"Do you want do carry out and to see the rainbow of the moon until it meets why?"
「むかし賢くて可愛いと言われたからですよ」
"It is because it was made to turn and it was said that it was wise and was dear."
「はあ……?」
" is あ.... It is ?."
「ある人にね、言われたんです。あなたはそんなに物知りで、そんなに綺麗でちやほやされているけれど、月の虹をその目で見たことがあるんですかって」
"It said to a certain man. Although you are a well informed person so much, are so beautiful and are indulged, you have seen the rainbow of the moon by the eye, cut, and you are ".
男は首を傾げて答えなかった。
The man tilted the head and did not answer.
老婆は物思いにふけったようすをしていたが、じきに続けた。
Although the old woman was doing signs that it was absorbed in meditation, it continued soon.
「男の方がいましてねえ」
"men -- it is -- "
「ああ」
"-- such -- "
「好きになりました」
"It took to it."
「はい」
It is and " is ".
「気をひきたくてね……。たまたまその人が月の虹の話をはじめたときに、そばへ寄っていきました」
"Do you want to attract mind ....? The side was visited when the man began the talk of the rainbow of the moon by chance."
「仲良くなれましたか」
"Could it become good [ relations ]?"
微笑みが返ってきた。
The smile came on the contrary.
「いいえ」
"No"
「…………」
" ........"
「つきにじをたった一度だけ見たことがある。それはもう綺麗な白い虹だったとその人が話しているときに、ついうっかり言ってしまったんです。ああ、あれは月虹(げっこう)と読むのですよと」
"じ has been seen only once [ only ] to with. It has been said by mistake, while the man is already saying that it was a beautiful white rainbow. That is oh, reading with 月虹 (げっこう)."
男は老婆の方へ顔を向けてじっと見つめた。
The man turned the face to old women and gazed.
しわに小さくうもれた眼(まなこ)が光り、なぜかそこだけ若く見える。
the eye (まなこ) which obtained on wrinkles small and leaked to them shines, and why or there look young
「それで、だったら見たことがあるか、と言われたのですね」
", then だったら見た -- it was said whether there were any things -- "
「そうでしたねえ」
"Under [ that is right ]"

 さてと。今日もとっぱじめっからつまづきました。“はじけたような熱”がうまくいかないのです。爆発(バースト)する熱って、ナニ? 爆弾テロでもなだれこんできたの? “辺りのかすかな音”という表現も、何気なさそうに見えて難しいし。
 しかし、本当の問題はそういうことじゃありません。“はじけたような熱”という暗喩表現を直訳して、果たしてアチラに通じるのでしょうか。
 ええあの、『雪国』って小説がありますよね。その一節に『夜の底が白くなった』という言い回しが出てきます。かの有名な『国境の長いトンネルを抜けると、そこは雪国だった』に続く一文です。これ、英語圏では全く意味が通じないので、直訳はできないそうですわ。“闇の下に真っ白な大地が横たわっていた”とかなんとか、暗喩もへったくれもない表現になっております。
 直訳したっていいじゃん、西欧人の想像力を鍛えてやれば? 異文化との遭遇ってやつ。日本人だって、「古びたその写真は、彼の子供時代を思い起こさせた」なんていう、国語文化にはなかった思想を取り入れたんだし。
 もっともアチラじゃ、底を意味するボトムという言葉がお尻の意味だったりもするから、
「『夜の尻が白くなった』だとよ、わはははは! 川端康成は面白いなあ」
 ということになるのかも知れません。
 で、問題の文章は"After the popping fever cooled down"と訳してみたんですが、“ポップしている熱がクールダウンしたあとで”なんぞと言われても、分からないっぽいです。作者のわたしもよく分かりません。感情の熱に関する言い回しを調べまくり、“彼女の興奮がおさまると”とかの方がいいかなとも思ったんですが、面倒になりました。初心者は細かいことを気にしないのです。分からないがゆえのこっ恥ずかしい度胸がチャーム・ポイントよ、うふ。

 ――と、どういうわけかいきなりここでバッターボックスの選手が飛び跳ねました。
 It turns out that a batter jumps.
 んなわけないじゃん。バッタを訳せなくてバッターと訳してしまったのです。“口を 切る”は本当に口をカットして流血沙汰に。ノッてるね、エキサイト翻訳。
 “そうまでして”が難しい。四苦八苦して中学英語に直した結果、“そんなに努力して”という言い回しに決めた。
 「はあ」が"is あ"ってなんじゃ、と考えこむ。どうやら“は”を助詞(てにをは)と勘違いして、isとやったらしい。そのうえこいつは“はい”のお返事すら訳せない。It is and " is ".って、よく分からないよー。どうせなら"tooth stomach"(歯胃)ぐらいの愛嬌みせてよ。
 “好きになりました”が"It took to it."って不思議なので調べてみたら、恋愛の意味じゃなくして気に入ることをtake toと言うそうな。へえ。

 おまけの一発は“微笑みが返ってきた”ね。
 出たな、ジャパニーズ・スマイル。
 日本人ならこの老婆の反応がイエスともノーともつかない――どちらかと言えばノーを予感させる笑みだということが分かるだろう。しかし、悲しいときや否定的な感情を示すときに微笑むのは、よそ様の文化においては「?」であるらしい。ここは一番、“彼女は必殺技ジャパニーズ・スマイルをくり出した!”とかなんとか意訳しておきたいところだけれど、ギャグじゃないのでペケ。しかたがないので“彼女はあいまいに笑った”くらいでお茶を濁しておこう。

 さて。ようやく主題に入ってきたわ。英語には漢字ふりがな問題なんてないんだけれど、トーシローが"rainbow of the moon"と呼ぶものを、ツウは"moonbow"と呼ぶ……というふうに、記述を分けました。レインボーというのは、雨(rain)でできた弓(bow)という意味です。ムーンボーは月でできた弓ね。姫様御殿の姫さんが、
「なんで普通の虹はsunbowと言わないの?」
 と言っておりました。ソレ、わたしも思ったわ。
 さて、今日はさらなる文化障壁が立ちはだかりました。“つい言ってしまった”の“つい”を辞書でひくと、“ケアレス”だとか、“言ってはいけないことを口から滑り出させる・漏洩(ろうえい)させる”だとか、ミステイクを強調するような言い回しばかりが並んでいます。まともに訳せば、“わたしは不注意者で、これこれの(言ってはいけない)ことを言った”と書かなくちゃなりません。あまりにもクリアな言い回しでビビります。つい書いちゃったような“つい”にふさわしい、もっとファジーな言い方はありませんか。
 そもそも、月虹(げっこう=moonbow)の正しい名称を相手に教えることが、なぜ【つい】言ってしまうことになるのでしょうか。日本人なら
「人の言葉を訂正するのは話の腰を折ることであって、ぶしつけだ。とりわけ片田舎のかぐやお婆の年代で、女がソレをやれば嫌われる危険性はきわめて大」
 という共通認識があるかと思いますが、英語文化圏の人間には通じないかも知れませんねえ。仮にうまく説明できたとしても、
「於來見沙都は遅れた東洋のサルだけあって、女性蔑視的な小説を書く」
 と、ひんしゅくを買うかもしんないです。そういう意図じゃないんだけど(汗)。
 まあこれは日本人読者でもそういう読み方をする人がいるかも知れないし、あえて言い訳はしないことにしましょう。
 本日の成果はここまで。

はじけたような熱が失せると、辺りのかすかな音が迫ってくる。
After the popping fever cooled down, faint sounds which were surrounding them seemed to draw near.
バッタの跳ねるのが分かった。
They knew that a grasshopper has leaped.
やがて男は口を切った。
After a while the man broak the silence.
「どうしてそうまでして月の虹を見たいんですか」
"Why do you try hard so much, to see the rainbow of the moon?"
「むかし賢くて可愛いと言われたからですよ」
"Because, a long time ago they said that I was wise and beautiful."
「はあ……?」
"pardon?"
「ある人にね、言われたんです。あなたはそんなに物知りで、そんなに綺麗でちやほやされているけれど、月の虹をその目で見たことがあるんですかって」
"A man said to me: You are a well informed person so much, and so beautiful and are indulged, however, have you seen the rainbow of the moon by your eyes?"
男は首を傾げて答えなかった。
He inclined his head and didn't answer.
老婆は物思いにふけったようすをしていたが、じきに続けた。
However the old woman seemed to be deep in meditation, she began to talk soon.
「男の方がいましてねえ」
"There was a man."
「ああ」
"Uh-huh."
「好きになりました」
"And I loved him."
「はい」
"Ah."
「気をひきたくてね……。たまたまその人が月の虹の話をはじめたときに、そばへ寄っていきました」
"I wanted to catch his mind.... and approached him when he began to talk about the rainbow of the moon by chance."
「仲良くなれましたか」
"Did you make friends with him?"
微笑みが返ってきた。
She smiled vaguely.
「いいえ」
"No."
「…………」
" ........"
「つきにじをたった一度だけ見たことがある。それはもう綺麗な白い虹だったとその人が話しているときに、ついうっかり言ってしまったんです。ああ、あれは月虹(げっこう)と読むのですよと」
"He said that he has seen the rainbow of the moon only at once and it was a really beautiful white rainbow. Then I was careless enough to say : Correctly the name of that is moonbow."
男は老婆の方へ顔を向けてじっと見つめた。
The man turned his face to her and gazed.
しわに小さくうもれた眼(まなこ)が光り、なぜかそこだけ若く見える。
Her eyes buried in wrinkles glistened, and only they looked young strange to say.
「それで、だったら見たことがあるか、と言われたのですね」
"Then, he asked you if you had seen it, didn't he?"
「そうでしたねえ」
"Oh, yes..."
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