「直立歩行をするのは人間だけ」
って発言するとき、いばるよねえ。たかだか歩き方ひとつで何をそんなにいばっているのか、おおかたの動物にくらべたらとんでもない鈍足のくせに。……なんて考えていたら、はっと思い当たることがあった。
サル方式にせよ鳥方式にせよ、いずれにしても重たい脳味噌を持つには不都合だということだ。
どちらも頭を前後、左右、または上下にシェイクしなければうまく歩けない。
鳥について言えば、まずは空を飛ぶために脳の軽量小型化がはかられたわけだけれども、ペンギンだってあれより大きくはできないだろう。頭を振り回すのをやめて脚を丈夫にし、俊足種族に昇格したダチョウでさえも、脳味噌を大きくできる体にはなれなかった。
歩いているとき、「どの瞬間をとっても」「体の重心のほぼ真上に」「無理なく」頭が乗っているのは人間ぐらいなもので、この属性があるために大きな脳味噌を育てることができたのだ。
あ、そうか! 要するに地面に対して垂直な背骨……大きい脳味噌を乗っけるのにピッタリな……それを完全直立歩行というのか。どうりで威張るわけだ。
鳥だってタイプの違いはあれど完全なる二足歩行には違いないのに、わたしたちはしばしば
「人間だけが完全二足歩行」
と言う。二足歩行(二本足で歩く)と直立歩行(直立して歩く)をとり違えたと言うよりは、知性――大きい脳味噌――を育てあげてこそ完全、という意識のためではないだろうか。
気づいてみれば馬鹿な話だ。カンのいい生徒なら
「見れば何となく違うだろう」
のひとことで、ほんとに何となく分かっちゃうのかも知れない。
そしてわたしのように、「なんとなくじゃヤだ」という人間だけが取り残された。
* * *
直立二足歩行ができなかったなら、わたしたちはサルのままだったかも知れないとはいう。
しかしふと考えれば、必ずしも二本足である必要はないのだ。四本足であろうが、五本足であろうが、重い脳味噌を無理なく支えられるシステムさえあれば良い。
地球人より高度な文明を持ったタコ型火星人なんてものが本当にいたとしたら、
「完全直立八足歩行をするのは、太陽系広しといえども我々だけ!」
なんて、とんでもなく威張って言うかもしれない。
わたしたちみたいにね。
このエッセイを書くに当たって、N義肢製作所の専務(技師でもある)の話が大変参考になった。彼の作った義足は、数年前スポーツ新聞にも載った義足のランナーを生み出している。
2001.7.24