火星人の直立歩行

ドナルドダックはよたよた歩いて幸せ

 サルや鳥はよたよた歩く。その「よたよた」は、なぜ起こるのだろう?
 二本足で歩けば、当然一本だけの足で全体重を支える瞬間がある。そのときどうやってバランスをとっているかを観察すると、次のような違いが見られた。
 まずはサルからいこう。

 下の図は、軸足を中心に左右の体の重みを平均にする二通りの方法だ。
重心図  サルは振り出す方の足を外側へ回転させながら(外転歩行という)、頭を反対方向へかたむけて左右のバランスをとる。足の振りにあわせて頭も左右に振れることになるので、「よたよた」となってしまう。
 対する人間は、上体が斜めへかたむかないよう、首から背中、肩・腰などの骨を微調整している。片足立ちの瞬間も、体の中心がほぼ地面に対して垂直……つまり「直立」だ。
 上体の方がはるかに重い不安定なかたち。自らは不安定に傾きつつも、背骨だけは垂直に保ち、足を外側へではなくまっすぐ上にあげる腰骨。物理的に考えても、直立を維持するのは難しい。
 しかし人間は、他の動物から見ればアクロバットな方法でバランスをとる。それを可能にするのが先に紹介した中臀筋《ちゅうでんきん》で、こんな不安定な姿勢をしっかり支えるのだ。彼ら(?)が軸足のつけ根と腰骨のあいだでがんばっているおかげで、もう一方の足を「斜め外側」ではなく「真上に」あげることができるというわけ。(正確には「足を上げる」というよりも、「骨盤が下がってくるのを防いでいる」らしい。)
 
 サルの中臀筋だって、もちろんがんばっている。筋肉だけががんばっても、骨の作りなどがうまくないといけないわけだ。ひょっとしたらサルは、直立姿勢で片足立ちになれないために、「完全直立歩行」ができないと言われているのかも知れない。
バレエ
 次に鳥の「よたよた」。
 実をいうと鳥の歩き方は種類によって個性があり、一生懸命観察したがこれといった決め手らしいものがない。スズメのようにチョンチョンとかわいらしく跳ねるものもあれば、鶴のように優雅な歩き方をするものもある。スズメは歩くと言うよりも跳ねているだけなので、「歩行」とは言えないかも知れない。スズメの歩き方を「ホッピング(飛び跳ね)」、鶴の歩き方を「ウォーキング(歩き)」と言って、区別するらしい。
 アヒルなどを見ると、本っ気でよたよたしている。片足立ちになった瞬間は、サルと同じように頭と足を結ぶ線が傾斜しており、左右に体を揺する。これは分かりやすかった。
 鶴は長時間片足立ちになれるぐらいだから、上体を横へかたむけずに重心をとる方法は心得ているだろう。足も外側へ振り出したりはせずに、まっすぐ前へ運ぶ。
 しかし、千鳥ほども素早く走り回る鳥だと、素人の観察眼ではなにがなんだかよく分からない。(余談だが、酔っぱらいを千鳥足というのは、千鳥がよたよた歩くからではなく、「次の瞬間どこへ行くか予測がつかない」ことがいわれだそうだ。彼らは急発進急停止が得意である。)
 ダチョウにいたってはたまにしかテレビに映らないうえに、正面から突進してくる映像などはカメラマンの命がいくつあっても足りないから、見られない。

 ふと思気がつくとわたしはサルに熱中するあまり、正面姿にばかり気を取られるようになっていた。いけない、横も見なくちゃ。

 人間は足を中心にすると、デフォルトで体の前後の重みがほぼ同じだ。前後に大きく突出した胴体でもない。
 それに比べると、ウォーキングタイプの鳥にはハンデがある。おそらく、脚を軸に天秤方式で重心をとっているのだろう。ニワトリあたりは、前後にピョコピョコ頭を振って歩く。首をバネのように動かすことで躍進力を生み出しているのだとはいうが、バランスとりにも一役かっているのでは? けっこう苦労して歩いている。
 サルの片足立ちを正面から見たときも、重心のとり方はやじろべえや天秤に近く、この点で似ているかも知れない。

 そういうわけで、サルは「正面から見たときに」、鳥は「横から見たときに」、片足立ちで天秤方式のバランスとりをするところが人間と違う、と素人仮説を立ててみた。