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【旅行記】時差ボケのナイトメア
セーヌ川をどんぶらこ
 半日寝たおかげで、アタマがすっきりしてきましたよ〜。
 復活!
 ……と言いつつ、せんに『いつだったか覚えていない』と書いたなかに、復活後の事件が混じっていることに気づいてしまいました(笑)。


 今夜の予定は、セーヌの川下りです! メトロに乗ってテテンテテンと走り、エッフェル塔のしたから観光船でどんぶらこ。
 ライトアップされたエッフェル塔、きれいだったなー。エッフェルさんが塔の建築に入れこんで財産を使い果たしてしまい、エッフェル塔の上に住んでた……なんて話も教えてもらいました。

 塔の足もとには、映画で見たのとそっくりなメリーゴーランドがあります。
 桐葉さんと姫さんが、
「フランス人ってメリーゴーランド好きだよねえ」
「大人になっても乗ってるもんねえ」
 と話していましたよ。
 あー。わたしその気持ち分かるかも。もしもフランスに住んでいたなら、40を過ぎてもあのきれいなメリーゴーランドに乗っているでしょう。


 ――残業疲れの帰り道、うつむいて歩く夜の公園。どこからともなく響いてくる、おもちゃめいた陽気な音楽。顔をあげると、豆電球で飾られたパラソル形の白い屋根が目に飛びこんできます。
「メリーゴーランドかあ……」
 子供のころ、パパにせがんでよく乗せてもらったのよねえ。あのころは無邪気で幸せだった……なんてことを考えながら、小銭のはいった財布をとりだしチケットを買うと、2度と降りることのできない仔馬に乗せられてしまうの。


 メリーゴーランドがホラーのモチーフにされる理由が、本場物を見て分かりましたよ。きれいで怖くて幻想的。

※        ※        ※

 そしてセーヌの川下りっ!
 観光スピーチの女性は大変な語学力でした。フランス語、英語、ドイツ語にイタリア語にあともうひとつは……スペイン語? 彼女が最後に、
"Japanese,No.6. Korean,No.7...."
 と言ったとき、6は日本語ガイドボタンの番号と気づいて、すぐに対処できましたよ。えっへんお利口さん。(^ー^)

 音声ガイドの日本語は微妙にへんです。やたらと平坦な発音で、
「セーヌ川の景観は世界遺産となっています」
 と説明しました。
 え、そうだったの!? ぜんぜん知らなかったなあ。関東は利根川、北海道は石狩川とかいうのと、同じ並びで考えていました〜(笑)。

 セーヌの岸辺は不思議です。“河原”というものがありません。
 根っから日本人なわたしは、土手の向こうに芦が生え、芦の向こうに砂利があり、不良少年が殴り合いをしたり子供が石を積んだり、鬼がやってきて積み石をけとばしたりする空間があるもんだとばかり思っておりました。
 河童かっぱはとても住めないでしょうね。身を隠すための茂みがないし、あんなに流れが速いとツツーッと流されてしまう。

 防犯上の問題があるので、現地にくわしい案内人がいないと不安ではありますが、セーヌの川下りは夜がお勧め。コンクリートの河川敷は、土手壁がアーチ型 にしきってあります。アーチの両側にはオレンジ色の街灯がたたずみ、正面には長めのベンチ。ひとつにつきひと組だけの恋人同士が、お約束のようによりそっ ています。
 近視的に見れば恋愛映画のようにきれいな光景なんですが、アングルを引いて、
“連なるアーチのしたにカップルの行列”
 と見れば、風刺めいたシュールさです。
 それでも絵になるセーヌ川。恋人同士のコラージュみたいですねえ。

 船上から見あげると、河川敷のアーチにはオレンジの灯り、土手のうえには白の灯りが、たがいちがいにならんでいました。両側にはお城のような建て物が連 なり、街灯に浮かんでこちらを見下ろしています。バルコニーの手すりは黒い針金みたい。年月に曇った白壁のうえで、複雑にからみあった模様をあらわしてい ました。

 波の形や動きも、日本では見たことがないものです。水面みなもには二色ふたいろの灯りが交互に映り、混じり合ったり離れたり、針のように光りながらどこまでも追いかけてきます。細く浅くせわしく動いて、少女めいた小走りをする年増女のようでした。
 たいした川幅でもないくせに、こんな波の形は見たことないや。川底までどのくらいあるのかなと思いながら眺めていたら、
「セーヌって深いのかなあ」
 ――って、誰かが言いましたっけ……。
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Copyright © Misato Oki(text) , Nekoyashiki(picture) -2005.10.04