「あんたが払ったのはこのお金でしょう?」
とかなんとか主張しているのが分かりました。桐葉さんが出したのは10ユーロのピン札ですよー。ピン札ってインパクトあるでしょう? なんで見まちがうかなあ。
最初のうちは、
「カン違いかなあ」
と思っていたんですが、じきにわざとやってるらしいと気がついて、むかむかしてきました。
そこへひょっこり現れたのが、いかにも“近所の主婦”といった風情の中年婦人です。
"May I help you?"
バイリンガルな彼女は、片言の英語でもどかしく抗議をする観光客に代わって、直訴を断行。お金は無事に戻ってきました。良かったあ。
助っ人マダム、一見ふつうのおばちゃん風ってところが、女クラーク・ケントみたいでかっこよかったです。
※ ※ ※
いつだったかはっきりしないけれど、1人で水を買いに行きました。
店頭で水を指さして、
「ハウ・マッチ?」
よっぽど脳みそがウニになっていたんでしょうねえ。自分がフランス語パーなことをコロッと忘れておりました。パリのお店屋さんは、観光客のへたな英語くらい聞き取ってくれるけれど、答えはだいたいフランス語なのです。
「××××!」
「はい?」
「×××△!」
「エート?」
「××※怒! ○▲□◆!!」
「だ、だからハウマッチ〜?」
売り子さんはため息をつくと、フランスなまりの英語をしゃべりました。
「シッスクティーンなんとか」
シックスティーン? 16ユーロ……なわけないか。2,400円だもんなあ? あ、そーか、16セント(=0.16ユーロ)だ!
というわけでじゃらじゃらと小銭を出して、あきれられたですよ。
フランスでミネラルウォーター24円はないだろ>自分。1.6ユーロだよ。
※ ※ ※
いつだったか……これは覚えてるなあ。低血圧でめまいをおこした日の朝だわ。
オペラ座を見学して、そのあとフランス在住の姫さんのお友達と食事をしました。
オペラ座を見たとき、ボーっとして2人の足を引っ張りまくっていたので、
「わたしはここで待っているから」
と1階で立ちんぼしておりましたら、姫さんがやってきて、
「2階は絶対みるべきだ。かついで登ってあげるから」
――じゃない、
「手を貸してあげるから」
と言ったような気がします。
気がついたら天井画をボーッと眺めていました。
シャガールの絵でした。
移動の記憶がないんだけれど、どうやってワープしたんでしょう。姫さんに加速装置とかがついてて、一瞬のうちに運ばれたのかなー。でもって自分の正体を知られてしまった姫さんは、アフターケアでわたしの記憶を消したのです。そうに違いありません。
あ、待てよ。オペラ座ができたのっていつか知らないけれど、どう見てもシャガールが生まれるずーーーーっとまえだよね。百年くらい?
そんな絵があるなんておかしいじゃん! まさかとは思うけれど、今度は目を開けたまま寝ぼけてたんじゃあ……(汗)
帰国してから不安になって調べたんですが、オペラ座にシャガールの天井画はあるそうです。やれやれ、よかった。