ロンドン塔で昼食をとったまでははっきりと覚えているんですが、その後の記憶はあいまいです。大英博物館でミイラを見たはずなんですけれど、それがロンドン塔のすぐあとなのか翌日なのか、どうしても思い出せません。
ロンドン塔の午後、あるいは翌朝って、わたしナニをしてたんでしょーか。
パブで夜食をとったことや、列車に乗り遅れそうになってムダに長いプラットホームを走ったことは覚えてるんですがねえ。
本格的に頭がバカになってきたのは、このあたりからです。
シェークスピアの故郷、ストラトフォード・アポン・エイボンは素敵な田舎でした♪
統一性のある町なみがシンプルで可愛らしいです。見渡す限りの白壁にこげ茶の屋根と柱。草花の緑やピンクがキュートに映えて、クレヨン画みたい。
シェークスピアの生家を見ることは決まっていたんですけれど、あとが定まらないままに英国の伝統ジャンクフード、フィッシュ&チップスを食しました。揚げたてのフィッシュ・フライおいしかった〜。
姫さんと桐葉さんが観光センターで仕入れてきた情報によると、お宿のすぐ裏に『バタフライ・ファーム』なるものがあるそうです。色鮮やかな熱帯雨林のチョウチョを、温室で放し飼いにしてあるんだって。ソノ筋では世界的にも有名な施設だそうな。
…………。
モルフォ蝶とか、いるんじゃないかなー。
アレクサンドラ・トリバネアゲハなんかが飛んでたら、どどどど、どうしよう〜。
見たいっ!
でもダメだよね……(涙)。
だってほら、女の人ってたいてい虫キライだし。トンボがとまっただけでも、
「キャー!」
ハエが飛んでも、
「キャー!」
って人がいるんだもんね。しくしく。
翌朝、食事に行こうと部屋を出て、階段わきの観光パンフレットを未練がましくゲット。パラリと開いて驚きました。
「あああああ。葉切りアリまでいるうっ!!」
葉切りアリっ!! 木の葉っぱを切りとって菌糸を植えつけ、キノコを育てて食べるアリです。葉っぱを運ぶ姿がヨットのようで、とってもプリティ! パラソル・アントともゆーんですよー。(日傘をさしてるみたいだから)
子供のころ、テレビで見たとき、
「ああ、一度でいいから本物を見たい」
と、ため息をつきました。葉切りアリっ!!
興奮しながらパンフレットを握りしめておりましたら、桐葉さんがひょいとこちらを見て、
「すぐそこにあるから、見に行く?」
と尋ねかけてきましたよ。
えっ! 虫ですよ、いいんですか。カゴに入ってるんじゃないですよ。飛んでるんですよ。うかつに歩くと顔にぶつかりますよ! パンフには毒グモの写真まで載ってるんですけどーーーーー!!
感激のあまりクラクラしてたら、姫さんが、
「いちばん近い観光ポイントだから、いいんじゃない?」
と言ってくれました。行きましょうっ!
モルフォ蝶もアレクサンドラもいなかったけれど、バタフライ・ファームは天国でした。いちどお金を払えば、その日のうちはなんど入館してもいいそうです。太っ腹よのう。
真っ先に目に入ったのは、いかにも熱帯産らしい瑠璃色のチョウチョです。標本はなんどか見たけれど、飛んでるのは初めてだあ。チョウチョ、チョウチョ、菜の葉にとまれ〜♪
……あ、とまった。さっそく写真を撮りましょう。よっこらしょ。
なんてゴソゴソしていたら、横合いからピュッと飛び出した人影がありました。続けざまにカメラを構えて、素早くフラッシュ。パチパチと撮っています。
驚いて見あげると、桐葉さんがチョウチョのように飛び回ってシャッターをきっているじゃありませんか。
「あのう、もしかして好きなんですか?」
と尋ねたら、
「えっ、知らなかったの?」
と目が丸くなりました。反対がわでは姫さんが、
「このチョウチョ、羽がすきとおってる!」
とか言いながら焦点距離をはかっています。
こ、これはもしかして……。
遅れをとったのかああ!!(泣)
葉切りアリのボックスには、葉っぱのほかに花のつぼみが入っていました。紫がかった薄いピンクで、お人形の髪飾りのようです。こいつをくわえて、ちょこちょこ歩く姿の可愛いこと! 生きててよかったよう。うるうる。
ボックス席(?)には葉切りアリのほか、タランチュラやサソリなどのヤバイ連中や、巨大ゴキブリ・ムカデなどお世辞にも女性には好かれないメンツが納められておりました。
いちばん気持ちが悪かったのは、体長十五〜二十センチはあろうかという、ワームです。英語力不足で説明が読めなかったんですが、ヒルに似ている気がするわ。
てらてらと黒光りのする体が壁に並んではりつく姿は、日野日出志のマンガさながらにスプラッター! 虫ギライでなくとも、食欲をなくす光景です。ヘタすりゃ夜中にうなされますよ。うぅ〜、トリハダが。
いそぎ足に通り過ぎようとしたら、不意に桐葉さんがシャッターを切りました。ひえ〜。
「桐葉さん! さっきはゴキブリやタランチュラも撮ってたみたいだけれど、こんなワームまで平気なんですかっ!?」
思わずつめよりましたら、いかにものほほーんとしたお答えが返ってきました。
「あ〜、わたし見るだけならOKかも」
師匠と呼ばせてください。