my season is・・・
春
雪がゆるやかに溶けた商店街を
駆け抜けるのが好きだった
一番だよと先頭に
自分の足跡を残すのが好きだった
キラキラと輝いて流れる風に
押された背中が好きだった
夏
白みはじめた空に傾けた傘の隙間から
霞む街を見るのが好きだった
真っ青な空で腕っ節の強い入道雲に
大声で呼びかけるのが好きだった
指先に集う火垂(ほたる)の光を
胸に抱き止めるのが好きだった
秋
木陰をほの紅く染めた絨毯を
踏みしだく音が好きだった
眠る前の樹の薫りが
鼻をくすぐるのが好きだった
降り注ぐ薄っぺらな陽光(ひかり)に
そっと手を振るのが好きだった
冬
天から舞い降りる清らかな結晶を
両手に受けるのが好きだった
路地を力一杯に吹き抜ける風が
気まぐれに戸口を叩くのが好きだった
白い大地に黄緑色の絵の具を広げる
草の芽を待つことが好きだった
彼女は眠ったまま
今日もずっと眠ったまま
明けることのない夢に季節は流されていく
まどろみながら移ろっていく
だけど彼女はいない
不思議色に寄り添った僕だけのキャンバスに
僕が描いた夢色の風景に
彼女の姿だけが映らない
彼女のいない枯れた世界で
時は軋みをあげて凍っていく
(壁紙:輝石工房 秋穂さん)
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